2019-03-17 15:37:43
久保利明 九段 vs. 藤井聡太 七段 棋聖戦
35手目69銀について。
67銀の形のほうが実戦例が多いのは75歩と角頭を攻める手を警戒しているからです。
今回の場合は73桂と居飛車が跳ねたため、75歩から振り飛車の角頭を攻めるためには94歩84飛などと何手かかけて桂頭のケアをしてから攻めていくことになります。つまりしばらくは振り飛車の角頭を攻めていく仕掛けは無理気味となることが考えられます。よって78の銀はこの何手か角頭を気にせず動かせます。
より直接的には、65歩と振り飛車の飛車先が突いてありますので67銀と指すと65桂と飛車先の歩を掠め取りながら角を攻められてしまいます。
更にこの局面、実戦には現れませんでしたが、18香と上がったあたりで、いきなり25桂と振り飛車から仕掛ける筋もあります。進行例としては25桂24角64歩同歩45歩といった進行になります。最後の45歩が角の利きにより取れません。このとき、最後の45歩のときに24角の利きが飛車に当たります。このときに69銀の形であれば飛車に紐がついています。67銀型の場合は実行できない仕掛けです。
大きくは上記3つの理由から、今回のケースでは67銀よりも69銀のほうが明確に勝ります。
そもそも77角67銀68飛という形は大駒の働きが非常に悪く決して良い形とはいえません。各種の定跡でもこの形から78飛や58飛など飛車を転換して角を68や59に引く形を作ったり、銀を56に出て飛車の働きを使ったりなどという展開になります。
なお今回のケースで78銀のまま戦うのはどうかということになりますが、振り飛車が78に銀を待機する理由はほぼ居飛車からの角交換を77同銀と取るためと言っていいです。そうでなければ基本的には78の銀はもっと玉側に近付けて指したいです。守りに使えば終盤で必ず働きますから。
更に専門的な話になりますが、今回、振り飛車はずっと居飛車から45歩と突かれる仕掛けを警戒しています。具体的には、居飛車側から86歩同歩45歩同桂77角成という攻め筋があります。この最後の77角成を同銀と取れず同桂とすると、以下44銀64歩86飛などと8筋を破られて簡単に不利になってしまいます。
ただし居飛車の桂が73に跳ねてあると少し事情が違います。前述の仕掛けの45歩を同歩と取り、77角成同桂86飛に46角と桂取りに自陣角を打つ手が居飛車の玉頭も睨んで有望です。これで振り飛車が明確に有利というわけではありませんが、73桂と跳ねた上でわざわざ45步からの仕掛けを居飛車が選択することははっきり損となります。
そのためこの局面では77角成を同銀と取る理由がなくなり、基本的に玉側に寄せていきたい銀を晴れて動かせることができるようになりました。そのときに前述の理由により67銀よりも69銀を選んだ。というのがこの局面での69銀なのかなと思います。
akabee 2a8038a2